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円安に対応した、法人税の合法的な節税

今年は年初比で、円がルピアに対し約20%下落しています(2022年10月末現在)。円建で親子ローンを実施している会社も多いと思いますが、その場合、インドネシア子会社側で多額の為替差益が計上されることになります。5億円の借入を実行している場合、単純計算で1億円相当の為替差益が計上されます。実は、インドネシアではこのような「未実現為替差益」に対しても、課税されます。


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◆Income tax law 2008 Article 4

I . 実現/未実現為替差益は、課税所得として計算する。


◆同法 注記

e. 為替差損益の換算及び税務上の認識は、現行のインドネシアの会計基準上で認められた方法により、継続的に行うものとする。

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そのため、営業利益が赤字なのに、法人税の納税が多額に発生する、といったケースも出始めています。12月決算の会社は、まだ対策を打てる可能性があります。合法的に節税できる選択肢は多くありませんが、取り得る選択肢を知っておくことは重要です。今回は、「急速な円安ルピア高に伴う、未実現為替差益への対応」を見ていきたいと思います。



① 決算前に請求を受ける

最初に思いつきやすいのが、決算前に出来る限り請求を受けて、課税所得を圧縮しようということです。しかしながら、これは短絡的な手法であり、様々なリスクを伴います。そもそも、決算前に急いで原材料や商品仕入をしたところで、決算時に在庫として残っているのであれば、課税所得の圧縮にはなりません。在庫として計上しないというのであれば、これは節税ではなく脱税になってしまいます。また、機械や設備の購入も、節税になりません。BSに固定資産計上を求められ、PLに一括費用計上することができないからです。

そうすると、次に考えるのはグループ間で無形のサービス等の請求を受ける、ということになるのですが、当然ながら実態がないとただの租税回避目的の請求ですし、移転価格上の問題もあります。グループ間で本当に実態があって、かつ未請求のサービスがあったということでしたら、請求できる可能性はあります。この場合は、サービス実態のエビデンスを残しておくということと、移転価格上問題ない価格設定をすることが重要となってきます。

いずれにしても、決算前に出来る限りの請求を受ける、という方法では、税務上問題ない範囲で課税所得の多くを圧縮できるような効果は期待できないと思います。


② 借入の通貨をルピアに変更する

借入の通貨をルピアに変更することで、インドネシア側に為替差損益を発生させないようにする、といった方法も考えられます。覚書を作成することで、借入の通貨変更をすること自体は問題ありません。ただしこの場合、逆に日本側で為替差益が発生することになりますので、結局どちらの国で納税するか、という問題に帰着します。また、通貨変更をする時点までの為替差益は取り消せませんので、いままで計上した為替差益を取り消そうと思えば、期首に遡って通貨変更をしたことにしないといけません。この点、法務的なコンプライアンス上の問題もあるといえます。



③ リースを利用する

機械等をリースする場合、リース料を実際に支払った時点で損金算入できますから、リース期間を工夫することで、合法的に早期償却が可能になります。インドネシアでは税務上の減価償却の期間が厳密に定められており、カテゴリーⅠは4年、カテゴリーⅡは8年、カテゴリーⅢは16年となります。これがリースの場合、カテゴリーⅠは最短2年、カテゴリーⅡとⅢは最短3年でリース期間を設定できます。


4,800,000,000 Rp. の、カテゴリーⅢの機械設備の例で違いを見ていきます。


自社購入で通常の減価償却をした場合、

4,800,000,000 Rp / 16年 = 300,000,000 Rp

が年間の減価償却額になります。


これを3年のリースで実行した場合、

4,800,000,000 Rp / 3年 = 1,600,000,000 Rp

が年間の損金算入額になります。

したがって、リースにした場合の正味節税額としては、

(1,600,000,000 Rp - 300,000,000 Rp) × 22%【法人税率】 = 286,000,000 Rp.

となります。


もちろん、リースの場合は、元金のほかに利息も支払わなければなりませんが、トータルの節税メリットが利息の支払い額を上回るケースが多いです。なお、自社の機械設備をリースバックすることも同様に可能です。

遡ってリースするわけにはいきませんので、決算に近い会社は、いまからリースを行うことになり、1年分の節税メリットを享受できないかもしれませんが、この場合は初月のリース料支払いを大きくするなどで調整できる可能性もあります。



④ 退職金私的年金(DPLK)を利用する

退職金は、引当金の計上時には損金算入できず、実際に退職金を支払った時のみに損金算入可能です。金融機関が政府認定で設立している、退職金私的年金(DPLK)を利用することで、DPLKに退職金積立金を拠出した時点で、損金算入することが可能になります。DPLKに積立を行うと、将来退職金が発生した場合には、DLPKから直接退職者に退職金が支払われます。

デメリットとしては、定期預金と違って、退職金にしか使うことのできない「固定された資金」になってしまうことですが、退職金は将来必ず発生するものですし、以下のようなメリットがあります。


ⅰ. 拠出した時点で損金算入できることによる節税効果

ⅱ. 定期預金以上に金利がつくプランもある (ただし、この金利分も、退職金にのみ使用される。)

ⅲ. 退職金に対して、通常より低い税率の所得税が課せられる

ⅳ. 会社が退職金積立を行っていることで、従業員の会社に対する安心感、ロイヤルティの向上


なお、DPLKを利用して、課税所得を圧縮したい場合は、期末までに実際にキャッシュアウトをしなければなりません。


⑤ 不動産(土地建物)の鑑定再評価による損失を計上する

基本的に土地は取得価格のままBSに計上されていますし、建物についても、含み損を抱えている場合もあります。なお、減損損失は税務上損金となりません。したがって、含み損があっても、税務上損金として認められないことになります。この含み損を損金に落とす方法があります。

不動産鑑定士(KJPP)による鑑定結果により、時価が取得価格より下回っていると評価された場合、損金計上が認められています。これは税法上しっかりと定められた手続きになります。

逆に、時価が取得価格より上回っていると評価された場合は、益金算入をすることになり、課税所得がむしろ増えてしまう結果となるのですが、繰越欠損金を多く抱えている企業はこれをうまく活用できます。欠損金が期限切れになるまえに、不動産鑑定を行い、土地建物のBS計上金額を増加させておくことで、納税は発生しませんし、翌年以降の減価償却が合法的に増えますので結果的に節税につながります。


以上みてきたように、合法的に節税手法は限られてはいますが、それでも決算前にやれることはあります。円安による未実現の為替差益による、多額の納税の発生は、誰も予測できなかったことでありますので、専門家やコンサルタントに決算前に相談しつつ、タックスプランを組んでいくことが肝要です。

 
 
 

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