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現物給付の取り扱い、2022年度個人確定申告 - 続報

 1月3日付のニューズレターで、現物給付の取り扱いについて、取り上げました。前回のニュースレターはこちら(https://www.libmitra.com/post/personalincometaxreturn)からご覧いただけます。


その後の展開は混迷を極めました。税務署が開催するセミナーで「今回はあまりに急な変更であったため、23年7月以降の適用でよい」というような発言があったり、まだ現物支給の詳細を定める財務大臣規定(PMK)が公表されていないにも関わらず、22年1月から現物給付に含まれるものの例として「住宅・車・ゴルフ・医療保険など」と記載された非公式の資料が出回っているなどの事態が起きています。また、超保守的なコンサルティング会社には、根拠が明確ではないにもかかわらず、「社員旅行」も人数に応じて従業員の課税所得になると指示するところもあるようです。このような状況下で、22年度の確定申告期限が迫り、多くの企業が対応に苦慮していると思われます。


現在、多くの点が不明確であることは確かですが、税務署の姿勢に関しては、2023年1月10日に行われた財務省国税庁(DJP)長官の記者会見が参考になります。主な発言内容は以下の通りです。

  • 現物給付に関する従業員所得税(PPh21)の源泉は、会社の義務として、2023年7月から適用されることになる。

  • 現在、財務大臣規定(PMK)を策定中であるが、公正かつ分かりやすいシステムの構築と規定策定作業には時間がかかるため、2023年7月までに施行することが予定されている。

  • 2022年度から現物給付が個人所得課税になることに変わりはないが、2022年度については、納税者が自分で計算し、確定申告で申告することが求められる。

 ここで重要なのは、23年7月からでよいと言っているのは、あくまで会社が従業員所得税(PPh21)の源泉をすることであって、現物給付の課税自体は、法律に記載の通り、22年1月からであるとしていることです。したがって、この法律自体が23年7月からの適用でよい、と言っているわけではないことに、注意が必要です。

 また、DJP長官の言葉に従うと、23年1月から6月までは、毎月のPPh21に含める義務はないのですが、原則として23年1月から含めていただくことをお勧めします。なぜなら、仮にPPh21に含めなかったとしても、その期間の分の現物給付は、後に23年度の確定申告に含めなければならないからです。確定申告で含めるとなると、確定納税額が増え、結果として予定納税を増やす結果につながります。予定納税が増えると、還付ポジションになりやすくなりますから、できるだけ予定納税を減らすことが重要です。


 とはいえ、何が現物給付に該当するのか明確になっていない中で、2022年度については「納税者が自ら計算し、確定申告で申告する」ことは無理があります。それに加えて、確定納税額が大きくなることで、2023年度の予納が増え、結果として多くの場合、2023年度の納税予測が過払いになります。予納(PPh25)にも現物支給分が含まれる一方、2023年度の従業員所得税(PPh21)にも現物支給分が含まれることになってしまうからです。過払になると、自動的に還付請求イコール個人への税務調査ということになってしまいますから、これは非常に困ります。


 以上を踏まえて、以下のように考えを整理するのがいいと思います。

1. 2022年度については、どこまで保守的に現物支給を含めるかは、各会社の判断による。

2. 税務コンサルの立場としては、少なくともいま例示されている「住宅・車・ゴルフ・医療保険」などは含めて申告することを強く勧めるが、以下のような理由から、未申告を指摘される蓋然性は比較的低いと思われる。

  • 今のいままで、現物給付に何が含まれるか具体的になっていない。

  • 2022年度に現物給付を申告することは、会社の義務ではなく、個人の義務であることから、会社に税務調査が入ったとしても指摘されることはない。加えて個人に対する税務調査は稀である。

3. 2022年度から現物給付を含めて申告することを決定した場合、確定申告で追納するのではなく、ペナルティを支払ってでもPPh21の修正申告を検討することも重要。(後述)

4. 2023年7月を待たずに、2023年1月からは、毎月のPPh21に現物給付を含めることが望ましい。


上記3.について補足します。2022年度の確定申告において、以下の納税者の例では、23年度の月次予納額は、【(A-B)÷12】= (300-60)÷12 = 20 と計算されます。

【A】要納税額:300

【B】月次納税済みPPh21:60

【C】月次納税済みPPh25:120

【D=A-B-C】確定納付額PPh29:120


ここで、現物給付を確定申告に含めると、課税所得が増えて要納税額も増えます。そのため、以下のようになります。

【A】要納税額:500

【B】月次納税済みPPh21:60

【C】月次納税済みPPh25:120

【D=A-B-C】確定納付額PPh29:320

この納税者は、23年度に【(A-B)÷12】= (500-60)÷12 ≒ 36.6

の月次予納が発生することになります。23年度は、現物給付を課税所得として、月次のPPh21の計算にも含めることになります。そのため、PPh21とPPh25を2重で支払うことになります。したがって、23年度の確定申告で過払いになる可能性が高いです。繰り返しになりますが、過払いになると、自動的に還付請求がされることになりますが、その場合は個人への税務調査が行われるため、できるだけ還付ポジションは避けることが望ましいです。


そこで、確定申告で現物給付を申告するのではなく、22年度のPPh21の修正申告をして現物給付を含まることによって、以下のような計算になります。

【A】要納税額:500

【B】月次納税済みPPh21:260

【C】月次納税済みPPh25:120

【D=A-B-C】確定納付額PPh29:120

こうすることによって、23年度の月次予納額は、

【(A-B)÷12】= (500-260)÷12 ≒ 20

になります。したがって23年度に還付ポジションになることを避けることができます。もちろん、修正申告をして追納することになりますから、ペナルティーが発生します。月利1%程度のペナルティーとなり、決して安い金額ではありませんが、還付ポジションによる、税務調査対応の負担を考えると、選択肢としてはあり得ると思います。



ところで、今回の法改正によって、実際にどの程度コストが増えるのか気になります。これまでは、現物給付は会社側で損金不算入だったため、22%の法人税が間接的に課されていました。今回からは、現物給付は個人所得税で課税されることになるため、実効税率は人によって異なります。たとえば、年収710 Juta Rpの場合、総支給額は約911Juta Rpであり、所得税は約201Juta Rpとなります。したがって、実効税率は約22%となり、法人税率と同じになります。つまり、手取りが710 Juta Rp以下の場合、現物給付を個人所得税として支払うことが有利になります。

法人税を全く納税していない企業にとっては、急激なコスト増になるかもしれませんが、法人税と個人所得税を合わせた場合、意外とコストに大きな変化はない場合もあります。外見上は営業利益が低下するように見えますが、税引き後の利益にはあまり変化がないケースがあるということです。


こうしたコスト計算も含めて、冷静な判断が望まれます。


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