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【Q&A】インドネシア国外への支払いに関する税務をすっきりと解決

【Q1】

弊社(インドネシア法人)は、親会社(日本法人)と、経理業務に関するサポートと指導に関する、業務委託契約を締結しています。弊社には、経理を担当するスタッフが1人いますが、まだ1人で決算の締め作業を行うには不安があり、日本の経理部門に毎月締め作業に関するサポートをしてもらっています。サポートは基本的に日本から遠隔で行ってもらっています。支払いは、前年度の1年分を、まとめて翌年6月に支払うことになっています。弊社の決算は12月です。

支払いが期を跨ぎますが、いままで費用の計上は支払時に行ってきました。しかしながら、22年12月期の会計監査において、22年1月~12月までの費用(23年6月に支払予定)を、22年度の決算に未払計上するよう、指摘されました。指摘に従い、決算を締めたところ、税務調査が入り、税務署から以下のような指摘をされました。


「22年1月~12月に費用計上しており、損金にも算入しているのだから、PPh26(源泉税)10%とPPN-JLN(サービス輸入にかかるVAT)11%を支払わなければならない。それに加えて、納税遅延の延滞税を課す。」


会計監査で指摘されて計上したのに、税務署から追徴を取られるなんて、納得できません。会計監査人が悪いのでしょうか?また、異議申立てや裁判に進んで、戦える余地はあるでしょうか?





【Answer】

結論からいうと、戦える余地は大いにあります。

税務署は、いくつかの論点をごちゃ混ぜにしています。海外への支払いに関する税務を考えるとき、常に以下の4つの論点に分解して、それぞれ別々に考えることを勧めています。

①会計上の処理

②法人税に関わる問題(損金になるかどうか)

③PPh26の納税

④PPN-JLNの納税

これらはまったく別の論点であり、個別に考える必要があります。たとえば、①~④の全てが問題になることもあるし、③PPh26は納税しなければならないけど、④PPN-JLNは納税しなくていい、といったケースもあります。

税務署からの指摘を、上記の論点に当てはめて分解すると、以下のようになります。


「22年1月~12月に費用計上しており、」➢「①会計上の処理に関する論点】

損金にも算入しているのだから、」➢「②法人税に関する論点】

「PPh26(源泉税)10%」➢「③PPh26の納税に関する論点】

「PPN-JLN(サービス輸入にかかるVAT)11%」➢「④PPN-JLNの納税に関する論点】


それでは、①~④について、個別にみていきたいと思います。



【①会計上の処理】

会計上の処理は、会計基準に従って行います。会計基準上、費用の計上は、「その発生した期間に正しく割り当てられるようにしなければならない」とされています。これを発生主義会計といったりします。今回のケースでは、22年1月~12月までの業務委託費は、実際の支払いは翌年であっても、22年度に「発生」したと考えます。したがって、会計監査人の指摘の通り、会計上未払費用として計上しなければなりません。

余談ですが、会計基準は、違反したら即座に罰せられるような法律(ハードローともいう)とは違います。会計基準は、「ソフトロー」といって、各国の「企業会計審議会」といった民間団体によって定められるものです。ただし、もちろん上場企業が、粉飾決算を行って株主をだました場合は、証券取引法などの別の法律で罰せられたり、訴えられたりします。しかしこの場合においても、「会計基準違反による罪」などというものは存在しないのです。


【②法人税に関わる問題】

法人税は、税務上の利益(課税所得ともいう)から、計算されます。税務上の利益と会計上の利益は必ずしも一致しません。会計上費用計上できるが、税務上は損金にならない、といったものもあるからです。損金になるかならないかは、インドネシアの所得税法を参照します。法人税というのは、法人の所得税のことです。したがって会計上未払計上した業務委託費が、損金になるかどうか、というのは、法人税の計算にまつわる問題です。

厳密性を排して言うならば、「インドネシアの所得税法で特に損金不算入として述べられていない限り、原則として会計上の費用は、税務上も損金計上できる」ということになります。また、「移転価格」という別の論点もありますが、移転価格上問題ない、適正な価格で設定されていれば、問題ありません。ただし、もちろん実態を伴わない虚偽の支出や、ビジネスに直接関係のない支出は損金算入できません。

今回のケースですと、業務委託している実態は間違いなく存在しており、サービスの便益を得ています。また、所得税法上も特にこのような支出を制限するような条項もないことから、損金算入して何ら問題ないと考えられます。たとえ実際の支払いが翌年であっても、未払計上の段階で損金算入して問題ありません。


【③PPh26の納税】

PPh26の納税が発生するのかどうかについては、インドネシアの所得税法と、日尼租税条約の両面から検討する必要があります。

インドネシアの所得税上では、非居住者(海外)への支払いにおいて、配当・ロイヤルティ・利息・その他サービスなど(事業所得という)、ほとんどの支払いについてPPh26の源泉税が課せられるとしています。

一方で日尼租税条約では、配当・ロイヤルティ・利息(これらをまとめて投資所得という)に関して支払地国(インドネシア)に課税権を認めているのは同様ですが、その他サービスなど(事業所得)に関しては、原則として金銭を受け取る側(日本)のみに課税権を認めています。(「PEなければ課税なし」の原則

日尼租税条約が優先されますから、その他サービスなど(事業所得)については、原則PPh26はかからない、と覚えていただいて問題ありません。海外への支払いにはすべてPPh26がかかる、と思い込んでいる人は、最近では結構減りましたが、まだまだ誤解が多いようです。

ただし、例外として、「サービスPE(別名タイムテスト)」というものがあります。サービスPEとは、日本法人がインドネシア法人へ従業員を派遣したり、現地の外注先を通じて、現地で6カ月以上にわたってコンサルティング業務や、建築・据え付け作業等の役務提供を行う場合は、例外としてインドネシア側に課税権を認めるものです。例えば、日本本社からのインドネシア法人に対して現地で技術指導を6カ月以上行うような場合は、サービスPEとして認定されて課税される可能性があります。

今回のケースでは、事業所得の支払いに該当し、かつ日本で遠隔で業務提供を行っていることからサービスPEに抵触しません。したがって、PPh26の納税は発生しないと考えられます。ただし、PPh26がかからないようにするには、居住者証明(DGT-1)を日本本社から取得し、正しく手続きをしておく必要がありますのでご留意ください。

繰り返しになりますが、②法人税の論点と、③PPh26の論点は別々に考えるべきであり、「損金算入しているからPPh26の納税義務がある」という税務署の主張は、論点を混同しており、反論可能であります。


【④PPN-JLNの納税】

PPN-JLN(Jasa Luar Negeri)は、サービスの輸入に関わるVATです。モノの輸入というのはイメージしやすいですが、サービスの輸入は少しイメージしづらいかもしれません。PPN-JLNは、サービス提供者が国外にいて、インドネシア法人がそのサービス提供を受ける場合に発生します。通常、VATは、モノやサービスを売った側が徴収し、税務署に納税します。しかしながらサービス輸入のケースでは、サービスを売る側が国外にいるため、売る側が直接インドネシアの税務署に納税することができません。そこで、売る側に代わって、買う側であるインドネシア法人が事務所にVATを納税する制度です。これを、リバースチャージ方式といいます。


リバースチャージ方式イメージ図


租税条約は、所得税や源泉税について2国間で取り決めるものであって、VATについては、何ら取り決めはありません。したがって、この問題を考える際は、インドネシアのVAT法を参照することになります。VAT法上において、PPN-JLNの納税タイミングは、「サービスの利用もしくは支払のどちらか早い方」とされています。

今回のケースでは、「経理業務のサポートと指導」というサービスを「輸入」したと考えます。サービスの利用は、22年1月~12月に済んでいるわけですから、PPN-JLNを支払いなさい、という税務署の指摘は、一定の合理性があるといえます。この点は、反論は難しいでしょう。



以上より、PPh26については、反論可能であり、コストが見合えば異議申立て・裁判まで進むのも有りだと思います。PPN-JLNの指摘に関しては、反論が難しいと思います。今後同様の指摘を避けるために、PPN-JLNに関しては、毎月申告・納税した方がいいでしょう。


このように、税務署の指摘は論点を混同していることが多いです。今回のケースでは、PPh26では反論できそうだが、PPN-JLNは反論は難しそうだ、という結論になりました。繰り返しになりますが、海外への支払いに関する税務は、論点を4つに分けて、それぞれ考えることが重要です。全部ダメか、全部OKか、という0か100かではないのです。


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