現物給付課税の意外な影響 - インドネシアの予納制度と利益の平準化
- F&A Writer
- 2023年3月8日
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前2回を通じて、現物給付課税について、見てきました。(現物給付の取り扱い、2022年度個人確定申告 、現物給付の取り扱い、2022年度個人確定申告 - 続報 ) 実は、現物給付課税によって、法人税が過払いになる可能性が高まります。今回は、その意外な影響について、考えていきたいと思います。
法人税が過払いになる理由について述べる前に、まず会計上の利益と税務上の利益の差についての、理解が必要です。下図は、会計上の利益(左側の数字)から、税務上の利益(右側の数字)を作成するための調整表です。ここでは真ん中の調整項目である、「永久差異」と「一時差異」の違いについては割愛いたしますが、会計上の利益に、加減算をして、税務上の利益(「課税所得」といいます)を作るのだとイメージいただければ問題ありません。なお、会計側で「費用」、「収益」に対応する言葉として、税務側ではそれぞれ「損金」、「益金」と言ったりします。
会計上の利益と税務上の利益は異なる。

加減算の項目には、会計上は「費用」として計上されるが、税務上は「損金」として認められない「損金不算入」や、その逆に会計上は「収益」として計上されるが、税務上は「益金」計上しなくてよい「益金不算入」などがあります。前者の代表例は、引当金です。引当金は、会計上は費用計上できますが、税務上は損金計上できないので、会計上の利益にプラス(加算)することになります。また、後者の代表例は、銀行の受取利息です。受取利息は、銀行側ですでに課税済みの所得なので、会計上は収益計上するのですが、税務上は益金計上する必要はありません。そのため、会計上の利益にたいして、マイナス(減算)することになります。
上図では、会計上の利益(左下の赤枠部分)2,033,499,355 Rpに対し、税務上の利益(右下の赤枠部分)が2,561,895,000Rpになっています。この税務上の利益に対して法人税が計算されます。このように、調整後の税務上の利益に対して課税されますので、極端な話、会計上の利益がマイナスなのに、課税されるといったこともあり得ます。
ここで注目していただきたいのは、「アパート賃借料」の項目です。ここでは駐在員のアパートを会社が負担しているケースを想定していますが、会計上は「アパート賃借料」として計上されるものの、税務上損金として認められないため、「損金不算入」として、税務上は「損金」として計上できませんでした。したがって、税務上の利益がその分増えますので、間接的に法人税が課せられていたことになります。これが2022年以前の状態です。
2023年度以降は、下図のようになります。
税制改正後は、従業員所得税として課税される代わりに、損金算入できるようになる。

2023年度以降は、現物給付が従業員所得税として課税される代わりに、会計上・税務上は「給与」として、損金算入できるようになりますから、課税所得が減ることになります。上図では、課税所得が2,161,895,000Rpとなり、2022年の課税所得2,561,895,000Rpと比べて、ちょうど400,000,000Rpだけ課税所得が減っていることがお判りいただけるかと思います。
これがなぜ法人税の過払いに繋がるかというと、インドネシアには予納制度があるからです。インドネシアでは、前年に納めた法人税÷12を、毎月予納をする必要があります。次年度の法人税のために、毎月積み立てていくイメージです。予納は勝手には止められませんから、昨年よりも課税所得が減ると、自動的に法人税の過払い=還付ポジションになってしまうのです。還付ポジションになると、還付請求をすることになるのですが、還付請求は自動的に税務調査に繋がります。税務調査は時間とコストもかかりますし、還付額を減らされることも多いため、出来る限り避けることが望ましいです。この予納制度があるが為に、インドネシアでは特に利益の平準化=タックスプランニングが非常に重要になってきます。
以上のように、今年は多くの会社がこの問題に直面すると考えられます。今年は多くの会社が、どのようにして課税所得を「減らすか」ではなく、どのようにして課税所得を「増やすか」を考える必要がでてきます。合法的に「どのようにして課税所得を減らすか」については、以前ニュースレターで選択肢をお伝えしました。(円安に対応した、法人税の合法的な節税) 一方で、合法的に課税所得を「増やす」方法については、むしろ多くの選択肢があると思います。損金を合法的に先食いすることは、違法になることが多いですが、損金を合法的に繰延する方法は、案外考え易いです。
インドネシアには予納制度があるために、急激に課税所得が増えることも、減ることも問題になりやすいのです。毎年ほぼ一定の課税所得に調整していくこと。タックスプランニングが大事なのです。
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