インドネシアでの契約書の言語：法的観点、最高裁判所の判例、及びPR 63/2019を踏まえた解説

　インドネシアでビジネスを展開する際、契約書の言語選択は重要なポイントとなります。この記事では、インドネシアの言語法、最高裁判所の判例、PR 63/2019、そして一般的な法的観点から、インドネシアでの契約書の言語選択について解説します。

• インドネシア言語法について

インドネシア言語法（法律第24号/2009）は、インドネシアにおける言語の使用に関する規定を定めた法律です。言語法により、インドネシア語が公用語として定められ、インドネシア国内の公的文書や教育、商業活動などでの使用が義務付けられています。言語法は、インドネシア国内での契約書作成にインドネシア語の使用を義務付けていますが、国際ビジネス契約（少なくとも一方の当事者が外国企業の場合。）には適用されないとされています。国際ビジネス契約の場合には、インドネシア語と英語等の他言語を併記することが認められています。

• インドネシア最高裁判所の言語法に関する判決

2015年8月にインドネシア最高裁判所は、言語法に関する重要な判決（No. 45/P/HUM/2013）を下しました。この判決は、PT Bangun Karya Pratama Lestariというインドネシア企業と米国企業のNine AM Ltd.との間で締結された金銭賃借契約の件に関連していました。

事件の経緯は以下の通りです。PT Bangun Karya Pratama Lestariは、Nine AM Ltd.と英語で金銭賃借契約を締結しました。しかし、契約が進行中に対立が発生し、PT Bangun Karya Pratama LestariはNine AM Ltd.をインドネシアの裁判所に訴えました。その際、PT Bangun Karya Pratama Lestariは、契約書が英語で作成されていたことから、言語法違反であると主張しました。

この訴訟を受けて、インドネシア最高裁判所は、言語法に基づきインドネシア国内で締結される契約書はインドネシア語で作成されるべきであるとの立場を示しました。最高裁は、インドネシア語での契約書作成が、インドネシアの国家主権と主権国家としての独立を保護するために必要であるとの立場を示しました。

この判決で重要なポイントは、英語のみで作成されていたことが問題であったことです。後述するPR 63/ 2019でも、国際ビジネス契約（少なくとも一方の当事者が外国企業の場合。）では、インドネシア語と英語を併記して、優先言語を英語と定めておくことは可能です。Nine AM Ltd. は、米国企業であったことから、こうした措置を講じておけば、何ら問題なかったと考えられます。

• PR 63/2019 について

2019年9月30日に制定された大統領規則PR63/2019は、インドネシアでの契約書作成に関する新たな規制を定めています。この規則は、インドネシア国内でのビジネス契約および国際ビジネス契約の双方に適用されます。PR 63/2019によれば、インドネシア国内企業との国際ビジネス契約においても、インドネシア語での契約書作成が必要となりますが、英語等の他言語を併記し、優先言語も当事者間で決められることが明確になりました。

• 裁判所の判例とPR 63/2019から学ぶべきポイント

裁判所の判例とPR 63/2019から学ぶべきポイントは以下の通りです。

(1) インドネシア国内でのビジネス契約においては、インドネシア語での契約書作成が義務付けられています。

(2) 国際ビジネス契約においても、一方の当事者がインドネシア国内企業となる場合、インドネシア語での契約書作成が必要ですが、他言語との併記の契約書を作成し、さらに優先言語を定めることも可能です。

• まとめと今後の対応

インドネシア言語法、最高裁判所の判例、PR 63/2019を踏まえた上で、インドネシアでの契約書の言語選択が重要であることがわかります。インドネシア国内企業との国際ビジネス契約では、英語や他の言語での契約書作成が可能ですが、その場合においてもインドネシア語との併記が必要です。

言語選択や法的リスクを考慮して、適切な契約書の言語を選択することが重要です。また、契約書の作成や翻訳にあたっては、インドネシア法に精通した専門家のアドバイスを求めることが重要です。

最後に、インドネシアの言語法や最高裁判所の判例、PR 63/2019は、時代の変化や国際ビジネス環境の変化に伴って変わる可能性があります。そのため、インドネシアでのビジネス展開を継続的に行う場合は、最新の情報や法律の変更に注意を払い、適切なアップデートを行うことが重要です。これにより、インドネシアでのビジネス活動が円滑に進み、法的リスクを最小限に抑えることができます。