従業員所得税の計算方法に関する税制改正ー源泉徴収税額表の導入(PP58/2023)
- F&A Writer
- 2024年1月4日
- 読了時間: 5分
更新日:2024年1月5日
2023年12月27日、従業員所得税の計算方法に関する新しい規則(PP58/2023)が公布され、2024年1月1日から施行されます。この改正により、計算方法は日本の所得税システムに似た形式に変わり、日本人にとってより理解しやすいものとなりました。
新規則では、最終的な年間所得税の総額に変更はありません。しかし、12月の年末調整期間を除く1月から11月までの計算方法は大幅に簡素化され、これにより毎月の給与計算が容易になります。年末調整と確定申告のプロセスには、この改正は影響しません。
今回の変更点を理解するには、改正前の所得税の計算方法を理解する必要があります。
【目次】
改正前の計算方法
改正後の計算方法
計算例
カテゴリー
本改正の問題点および今後の予測
参考 - 源泉徴収税額表
改正前の計算方法 改正前は、以下のステップで月次の所得税を計算していました。
以下便宜上、給与=課税所得として説明します。
①当月の給与に12を乗じる (=年間予測給与総額)
②①の給与を、下図の累進課税テーブルに当てはめ、「年間予測所得税額」を算出する。
③②を12で除して、当月の所得税とする。
④1月~11月までは、以上の計算を繰り返します。
⑤12月になったら、1年間の「実際給与総額」が確定しますので、「実際給与総額」を元に上図累進課税テーブルに当てはめて「年間実際所得税額」を計算します。
⑥⑤で求めた「年間実際所得税額」から、1月~11月までで納税済みの所得税の差額を、12月の所得税とします。(=年末調整)
改正前の計算方法では、毎月の給与を累進課税テーブルに当てはめなくてはならず、複雑な計算となっていました。
加えて、1月から11月までの期間には、当月の給与を12倍にして計算された「年間予測給与総額」を使用していました。この方法では、年末調整時に大きな差額が生じることがあり、12月の手取りが減少するか、逆に11月までに過剰に納めた税金が発生する可能性がありました。
こうした問題点を解決するため、1月~11月までの計算方法を変更したのが今回の改正になります。
改正後の計算方法
改正後は、以下のステップで月次の所得税を計算します。
①1月~11月までは、当月の給与額に「源泉徴収税額表」の一定の税率をかけた税金を当月の所得税とします。「源泉徴収税額表」は、以下のようなテーブルになっています。(一部抜粋。カテゴリーについては後述。)
②12月になったら、1年間の「実際給与総額」を元に累進課税テーブルに当てはめて「年間実際所得税額」を計算します。
③「年間実際所得税額」から、1月~11月までで納税済みの所得税の差額を、12月の所得税とします。(=年末調整)
つまり、12月の処理は改正前と全く同じで、累進課税テーブルに当てはめた所得税を計算し、差額を納税することになりますので、結局のところトータルで納税する金額はかわりません。
違いは1月~11月までの処理で、累進課税テーブルにあてはめることはせずに、給与額に応じた一定の税額を単純に掛け算すればよいことになりました。
この一定の税額をまとめた表を、「源泉徴収税額表」と呼びます。
計算例
2024年において、R氏はPT ABC社の正社員として働いています。 R氏は、月給としてRp10,000,000を受け取っています。未婚で、扶養家族はいません。
ステップ1
1月~10月までは、残業もなく、給与はちょうど10,000,000Rpでした。
源泉徴収税額票より、下図の通り2.0%の税率が課せられます。したがって、1月~10月までで納める所得税は、10,000,000×2.0%×10= 2,000,000 (Rp) になります。
ステップ2
11月は、多少の残業が発生して、給与の合計は10,200,000Rpでした。
源泉徴収税額票より、下図の通り2.25%の税率が課せられます。したがって、11月の所得税は、10,200,000×2.25%= 229,500 (Rp) になります。
11月までで納めた所得税の合計は、ステップ1の2,000,000 Rp + ステップ2の229,500 Rp = 2,229,500 Rpとなりました。
ステップ3
12月は残業がなく、給与はちょうど10,000,000Rpでした。
したがって、年間の実際の給与合計は、120,200,000Rpになります。
この120,200,000 Rpを、累進課税テーブルにあてはめて再計算します。この際、所得控除(この例では60,000,000Rp)を差し引けますので、所得控除を引いたあとの課税所得に対し、計算していきます。
払うべき所得税は3,030,000Rpと計算されましたので、11月までの納税額2,229,500ルピアとの差額800,500Rpが、12月の所得税となります。
したがって、12月の手取りは、
10,000,000 - 800,500 = 9,199,500 (Rp)
となります。
カテゴリー
扶養家族の人数と、既婚・未婚かに応じて、「源泉徴収税額表」が3種類用意されています。また、日雇い労働者のための「源泉徴収税額表」も1種類用意されており、合計4種類の「源泉徴収税額表」があります。
カテゴリーA:未婚で扶養家族なし。 未婚で扶養家族が1人。 既婚で扶養家族なし。
カテゴリーB:未婚で扶養家族が2人。 未婚で扶養家族が3人。 既婚で扶養家族が1人。 既婚で扶養家族が2人。
カテゴリーC:既婚で扶養家族が3人。
日雇い:扶養家族の人数に関わらず1種類。
本改正の問題点および今後の予測
本改正で、月次の給与計算業務の負担は減ると考えられ、この点においては良い改正といえます。しかしながら、以下のような問題点があります。
賞与の源泉徴収税額表が用意されていない
手取り固定(グロスアップ)の給与支払いが想定されていない。
個人の外注先(弁護士やノタリスなど)などのスポットの支払いが想定されていない。
特に、手取り固定の給与支払いが想定されていないことに関しては、重要な問題だと思われます。インドネシアでは、所得税を会社負担として、給与を手取りで決めている会社が多いからです。現行の源泉徴収税額表を適用して手取り固定で所得税計算をしようとすると、余計複雑な計算となってしまいます。この点、今後の改正が望まれます。
【参考】
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